Yukon Arctic Ultra 2016

レース5日目(前半):242km~278km(行動時間10時間:ユーコン川沿いに出る少し手前~カーマックス)

途中で選手がビバーク脇を通過する気配で少し目を覚ますがよく眠れた。起きたのは7時ごろ。4時間ほど寝てしまった。いつも通りのパターンで先行する選手たちはとっくに行ってしまっただろう。でもきちんと設営せずに熟睡できたのは大きな収穫だった。10分で寝る準備ができ10分で撤収できるのは大きい。動き出してみると足のむくみが取れたためか足先の痛みがなくなっていてがんがん走れる。これなら300マイル完走できそうだし、前の選手たちにも追いつけるな!と思ったらしばらくして痛みが復活した。1時間足らずの夢に終わった。

ユーコン川沿いに出るとユーコン川はこれまで見てきたように平らに凍っているのではなく乱氷のように割れた氷が積み重なったようになっている。トレイルはユーコン川に下りず平行して山の中をアップダウンを繰り返しながら続いている。トレイルは一部ユーコン川に下りて乱氷の中のトレイル(スノーモービルで跡がついている)に入るが基本的には川沿いの山の中を進む。

朝9時30分。カーマックスまで23km。補給がてら妙に寒いなと思って温度計を見ると気温マイナス25度。天気予報ではマイナス15度程度に上がるはずだったが。それに今朝寝ていたときはそんなに寒くなかったが川沿いに出たから気温が下がったのかな?Goproを使おうとすると、またも電源を入れてもすぐに落ちる。マイナス20度を下回るとGoproは動かないようだ。足先の痛みは復活してしまったが、しっかり寝ることができたためか股関節・膝などの疲労は取れた気がする。少なくとも筋肉疲労は睡眠時間を確保すれば回復するということがわかったのが収穫。

カーマックスへ残りの距離・時間が読めるようになってきたため、その後のことも考えて足の指が痛くないようにできないかいろいろ試しながら進むことにした。ソックスの組み合わせ、シューズの組み合わせ、誰かさんの真似をしてダクトテープを貼ってみたり、けっきょく有効な方法は見つからず。痛いのは我慢するしかないかーという感じだった。最終的に傷口をテーピングテープで留めて前進。あまり意味ないと思いつつそれでも何もしなければ今までと同じなので・・・。

16時ごろ。ユーコン川の上を進むトレイル。カーマックスでアラスカハイウェイがユーコン川を渡る鉄橋が見えてきた。久しぶりに人間世界の文明を感じて嬉しい。鉄橋の近くに取材の岡部さんが出てきているのが見えた。SPOTで数分ごとに選手の位置が更新されるので取材や運営にはかなり便利そうだ。日本で使っているGPS端末と違って衛星回線だからデータが取れていないということが少ないのが強いな。

カーマックス到着は17時5分。制限時間の5時間25分前。事前に作成した計画よりも5時間35分遅れ。この4日間のうちの後半2日が足の痛みでうまく進めていないことを考えれば、意外とましな時間に到着している気がする。ただ事前計画通りだと最終ゴールにも6時間しか余裕がないため、すでにぎりぎりということになる。この先も睡眠・休息の時間を削って歩くということが多くなりそうだった。

CP5 Carmacksはコミュニティセンターのしっかりした建物。テレビで見たあの場所にたどり着いたということで嬉しい。ここはレースのチェックポイントになっているだけでなく、今日は地域のイベントもおこなわれていた。食事をいただき、ここでの楽しみシャワーを浴びる(お湯の出がいまいちでさっぱり感は控えめ)。足先の痛みはソックスを履いていれば歩くのは大丈夫だが、シャワーを浴びて裸足になったら痛くて床に足先を付けれない。

つま先の痛みを少しでも軽くしたく何かよい治療ができるのではないかと考えロバート(主催者)に傷を見てもらう。するとここにはいないメディカル担当に傷を見せて判断をしてもらうということで足の傷の写真を撮りメディカル担当に送信。スカイプで相談するようだった。すると予想外の回答で「傷口が開いていて感染症にかかる可能性があるためレースを続けさせるわけにはいかない」とのこと。ここでレース終了という判断をされてしまった。思わず「見せるんじゃなかった」と言ってしまったが見せてしまったものは仕方がない。

ただロバートは他の人の意見も聞いてみると言ってくれ、それまでコミュニティセンター2階の広間で休息しているようにとのこと。岡部さんがマットとシュラフを貸してくれたので、自分のシュラフは乾燥室に干しておくことができた。ただ行けるのか行けないのかわからない状態で安心して熟睡できるはずもなく(たぶんこれでストップだと思っていたが、それならなおさら無理に寝る必要もなく・・・)少しうとうとしたら11時ごろロバートが一緒に来てくれと呼びに来た。たぶん2時間くらいは眠れたかな。

1階に降りると、参加者でコース上で何度か出会っている3人組のうちの1人の男性がいた。ブリーフ1枚でうろうろしているけどお医者さんだそうです。傷口を見て足の指に触れて熱を持っていないかなど調べている。こういう詳細な説明は私の英語力では無理なので、その場ではロバートが聞いておいてくれ岡部さんが来たら伝えてもらうことになった。岡部さんの通訳によると「(あくまで主催側としてはお勧めしないが)今のところ感染症の様子もないしベイパーバリアは使用禁止でなるべく乾いた状態を保ってレースを続けること。ただ次のチェックポイント以降毎回足をチェックして悪化するようならすぐにストップさせる」というものだった。もちろん先に進ませてくれるのなら了解なので、ほっとして出発の準備を始める。

装備の入れ替えをし、到着時に食事をもらってからもう6時間以上経っていてお腹が空いたので、ここでがっつり食べてから出発することにする。装備の入れ替え中に自分の前を行く3人組が出発の気配だったため、岡部さんが荷物を端にどかしたほうがよさそうとか移動させようとしていたので「自分でやるから荷物にさわらないで」とお願いした。装備品が多いと置き場が変わっただけでも混乱や忘れ物の原因になるので。食事をしている間に岡部さんがサーモスにお湯を補充しておいてくれた。

日付が変わって2月9日(火)午前1時20分にカーマックス出発。