Yukon Arctic Ultra(本編)

レース1日目

レーススタートの朝。櫛田さんがモーテルに9時に迎えに来てくれるので、8時に起きて朝食を食べ、バスタブにお湯を入れて体を温めた。 朝食はれなっちがスーパーでお米を買って鍋で炊いてくれた。 8時50分ごろちほさんが来た。スタートの見送りをしてくれるという。 出発直前はさすがに荷物のまとめに手間取り9時30分近くの出発になった。でもスタートは10時30分でスタート前にやることはないし、 他の選手たちの輸送もHigh Country innから2便で1便は9時15分出発と言っていたから間に合うだろう。

会場に到着するとスタートまで1時間を切っているのにまだ選手は誰もいなく、大会スタッフが2~3人でスタートゲートを設置していた。 昨日のユーコンクエストのような観客もなく仲間内の草レース感満載。 10時を過ぎても選手の姿はまばら本当に10時30分にスタートするのかな?櫛田さんの車で暖かくしてコーラを飲みながら待つ。 モーテルからスタートのシップヤードパークは歩いても10分程度だと思うが、少しでも体力温存し、 直前まで暖かいところにいろと櫛田さんが車を出してくれている。ほんとにありがたい。

10時15分。いいかげんスタートに行こうと車から降りると、いつのまにか選手が集結していて出遅れた自分は最後尾のほう出発になりそう。 もっとも人数も70人くらいしかいないし、スタートロスなんて気にする必要もない。 スタートゲートのところで集合写真っぽいことをしているので、一応急いで行ってみるが選手たちの後ろから顔を出して見るものの間に合わなかったっぽい。 れなっちにスタートゲートで写真を撮ってもらう。 自分のソリのところに戻ってハーネスを装着。ショルダーベルトが捻れたりしてもぞもぞしているうちにレーススタート(笑)

ソリをハーネスに接続しようとしたら留めるためのピンが脱落していてない。いままで散々練習で使っていて数日前に使ったときもちゃんとあったのにここで失くすか。 櫛田さんが車を見てくると車に向かった。選手は皆出発して取り残されている。 もう1~2名遅れていた気がするが自分のことで精一杯で選手だったかはっきりとはわからない。 別にここで5分や10分遅れたところで何かに影響するわけではないので慌てない。 (後日談。最終ランナーのカーマックス関門到着は10分前だったそうで、こういうのが命取りになることもありえる)

櫛田さんがキーホルダーのリングを持って来てくれ、それでハーネスとソリを接続することができた。助かった! ぶっちぎりの最下位でレーススタート慌ててもしかたがないので、日本の国旗に皆が寄せ書きしてくれたものをストックにつけて振りながらスタート。 見送り隊と別れてコース上に1人になってからペースを上げる。

最初の区間rivendell farm(42km)までは時速4km程度の計画。これは補給など多少の停止時間込みなので実際はやや速く進む。 出遅れて1人ぼっちなので集団に追いつくまでは予定ペースを上回るペースで進むことにする。 すぐに追いつくと思っていたが全然追いつかない。何人か抜かしたがスタートまもなく荷物をいじっている人、ウェアを調整している人、トイレしている人、 とりあえずスタートしましたという人のみ。普通に進んでいる人は見通しのいい場所に出ても遥か彼方。 当分は凍ったユーコン川の上を進むので1km以上先までしっかり見えている。

タキーニ橋までは北に向かって進むが正面から微風がありとても寒い。気温はマイナス30度ないかな?くらいだと思われるが、体感はかなり。 タヌキのファーをつけたフードを深くかぶり皮膚は露出しない。(できない) 3時間ほど経過したところでシュラフに入り横になっている選手がいた。レースの準備が忙しくて寝不足なのかなくらいにしか思わなかったが、 後から聞いた話だと低体温で危険な状態、SPOTのSOSも押せないくらいの状態だったとか。まさかそんなに早くダウンするとは思わないもんなあ。

タキーニ橋にれなっち、櫛田さん、ちほさんが応援に来てくれていた。櫛田さんが車で選手が見えるポイントを回ってくれている。 次のCPのrivendell farmにも来てくれるという。楽しみにしています!と言って別れる。 タキーニ橋から進行方向は西向きになりタキーニ川の上を進む。向かい風がなくなったのでいくらか楽になった。 スタート後のテンションがいくらか落ち着いてきた。それなりのペース、おそらく時速5kmくらいで進んでいるがそんなに前に追いつくわけでもなく 前と後ろに人が見える程度の集団の中。後ろには10人程度しかいないと思うので最後尾グループと言っていいだろう。 予定を大きく逸脱しない範囲で飛ばしているのに全然追いつかず、少しでも足を止めるとすぐに後ろが追いついてくるというのは予想外。みんな速い。

夕暮れでだんだん暗くなり、GPSの距離が32kmを過ぎCPまであと1時間くらいかなというところでお腹が空いてきた。 歩きながらもウェストバッグからフリーズドライやカロリーメイトを取り出して食べてはいるが数時間に一度はがつっと食べたくなる。 何人かに抜かされたが気にしても仕方がない。最後尾集団でさらに後方になる焦りは感じる。 ヘッドライトをつけ、エネルギーをたっぷり詰め込み、トイレも済ませて「さあ次のCPまでペース上げて行くぞ」と思ったらすぐに到着してしまった。 42kmのCPのはずなのにGPS計測は34km。自分の計画した予定時刻よりも2時間以上早い。たぶん距離間違っていると思うな。

CPでは大会スタッフが選手の到着を待ち構えてCPの到着時刻、出発時刻を記録しているのかと思っていたら自己申告だった。 どの人がスタッフなのかよくわからないが選手の名前が書かれた紙が張り出されているところにいる人に話しかけたら対応してくれた。 CPでは軽食がもらえることになっていて、TV取材スタッフがスープ貰えますよと教えてくれたので、 スタッフにスープほしいと話したら容器を持ってくるように言われたので鍋を持っていく。たっぷり入れてくれたが、CP到着直前にしっかり食べてしまったので、完食できるか心配な量。 れなっちと櫛田さんに会う。ちょうど到着したところとのこと。ちほさんは明日テストとかで帰宅したらしい。焚き火にあたりながらスープを飲みつつ話をする。 れなっちと櫛田さんがアシスタントみたいになっているけどルール的に大丈夫かな。

出発前にお湯をもらう。まだたっぷり持っていたので、消費した分だけの補充でいいかなと思ったが、 櫛田さんに新鮮な(温度の高い)お湯を持って行くように言われたのでそのようにする。 相変わらずどの人がスタッフなのかよくわからないのでスープをもらったテントに入り込みお湯の鍋から補充する。 すると選手はテント内に入ってはいけないと言われたので、櫛田さんとれなっちにお願いして外で待つ(本来はスタッフにお願いする)。 出発の準備を整えると、櫛田さんが「もう一箇所会える場所があるから行くよ」と言ってくれる。 もう一箇所来ると帰りは日付が変わってしまうと思うんだけどありがたい。

rivendell farmを出て快調に歩く。CP2のdog grave lakeまで53km睡眠を取らずに行ければ最高なので急ぎたくなるが体が温まって汗が出てきたのでペースを落とす。 しかしペースを落としたら眠くなってきた。どうもフードを被ったり、夜になって視界が狭くなると眠くなって困る。 眠くてよろよろと進み眠気を飛ばすために早くもiPod投入。しかしそんなに効果はない。 れなっちと櫛田さんに会えるポイントが川から上がったところらしいので、それを励みに頑張る。 かなりの時間が立ってやっと川から出る。少し急な登り。これまでずっと川で真っ平らだったので登りがきつく感じる。そして眠い。 川から上がったけれど、れなっちと櫛田さんの姿はなく「もしかしたらここまで来る道が車で走行不可だったりして会えないかも」と残念な気持ちになりながら、 しばらく登って行くと広い場所がありれなっちと櫛田さんがいた。時間は24時ちょっと前。ペースが落ちたので遅くまで待たせてしまった。

あまりにもふらふらで寒くなってきたので少し眠って行くことにする。1人ビバークしている選手がいた。 ツェルトを立ててシュラフ、マットを放り込み中へ転がり込む。ツェルト内は自分の息が凍りついてダイアモンドダストが舞っている。マイナス30度は余裕で下回っていそうだ。 シューズを脱ごうとするとなんと凍っている。メリノウールソックスも凍っていてシューズに張り付いている。紐を思い切り緩めて力いっぱい引き剥がした。 レースに出発する2週間前に極地に詳しい人に自分の汗で装備が凍らないようにするベイパーバリアという考え方を聞いたのだが、 忙しかったこともあって外側に履く予定だった防水ソックス(sealskinz)を内側に履いてベイパーバリアの代わりにとしていたのだが、これがよくなかった。 sealskinzは蒸気を外に出す働きがあるためベイパーバリアにならなかった。外に出すことは知っていたし、 下見のときのトレーニングでも外側に履いていても1日歩くと外側がしっとり濡れていて、それでもある程度は期待した働きになるだろうと考えていたが甘かった。

シューズを就寝時にシュラフの中に入れて温める防水袋に入れようとして防水袋を忘れてきたことに気がつく。そういえば防水袋あまっていたっけ。 あまりにも単純なミス。シューズ凍結と二重でショックだ。れなっちが「車の中に荷物全部あるけど」と言うが、 ルール違反なので(そういうルールが明記されているわけではないけど)とりあえずシュラフを入れていた袋の中に入れる。 ブレイバーンまで行けばドロップバッグに使っている防水袋が手に入るので大丈夫だろう。 心配そうにツェルトのそばに立っているれなっちに寒いから車に戻るように言って別れる。ここからは完全に1人のレース。やはり寂しい。

設営している間に体が冷えてシュラフに入っても温まりにくい足がぶるぶる震えている。しかし相当眠かったようで気がつくと2時間経過。一瞬で眠ったらしい。