The Last Desert
ステージ4 ダンコ島
5時に起床しテントを畳んでゾディアックに乗り船へ戻る。雪がちらちらと舞っているものの寒くは感じないし夜(明るいが)もよく眠れた。風もなく穏やかで今日は予定通り8時間のレースができそうだ。上位陣は入賞をかけた最後の意地のぶつかり合いになるだろう。緊張感はあるがレースとしてこんなにおもしろいことはない「やってやるぞ!」。船で朝食にしている間に船はネコ湾を出発しパラダイスベイへ向かう。4時間ほど移動し10時ごろ到着予定らしい。夜も眠れたがやはり船のベッドのほうが休まるためブリーフィングまで寝る。レースの準備を済ませるがなかなかブリーフィングの呼び出しがかからない。
現地到着予定の10時になっても船は動き続けているし、部屋のモニターに映し出されている現在地もレース予定地と思われたパラダイスベイを通り過ぎて別の場所を探しているように見える。パラダイスベイは南極観光の中でも素晴らしい景色の場所まさに「パラダイス」らしいため、そこを通過してしまうのはとても残念。ラウンジに様子を見に上がってみると外は吹雪。雪の量は少ないが風が強くゾディアックで上陸できる雰囲気ではない。
船はドゥメール島(Doumer)に到達したが相変わらず天候は荒れ模様。放送が入りラウンジに集合してブリーフィングがおこなわれる。モニターに現在の天候の状況が映し出され当分天気の回復が見込めそうにないことが見て取れる。この辺一帯は悪天候であること、別の場所に移動しつつ天気の回復を待ってみるらしいことはわかった。もしかしたらレースはおこなわれずに終了してしまうかもしれない。
レースの結果のほうを考えてみると自分は4位で3位のアンナ・マリーとは約7km差。5位とは約4km差。3位に追いつく可能性を残すには予定の8時間のレースがフルにおこなわれる必要がある。ただ8時間は自分の得意な(安全な)競技時間を少しだけ超えているため、もしも何かトラブルがあれば5位と入れ替わる可能性もある。そのため結果だけを考えるならば今日は走らずに終わってしまうか、5位に追いつかれる可能性がないくらい短縮された時間で実施されるのが安全ではある。少しだけ「ラッキー」と思った消極的な自分が嫌だが、ここまで来たら「男子3位の楯を持ち帰りたい!」という強い想いの表れでもある。それでもやっぱり最後はみんなで全力で走って終わりたいかな。
船は再び動き始めネコ湾の方角へ戻っていきダンコ島(Danko)に到着した。曇っているものの天候は穏やかになってきている。16時からブリーフィングがおこなわれ最終ステージ開催決定!これで南極に上陸してお別れすることができる。わずかに開催される望みを持ってウェアの準備もできている状態、テーピングもしっかりした状態でいたため、すぐにゾディアックに乗って17時ごろ上陸。午前中に比べれば相当ましな天気ではあるものの雪が少し降っているし風もあり寒い。今日はレインウェア上下を着て走ることにした。
競技時間は17時30分から20時30分まで。または1位のビンセントが4日間の総距離で200kmを超えるまでとなった。今日は1周1.6kmのコースのため11周17.6kmでビンセントが200kmに到達する。その距離なら20時30分まで走ることはないだろう。ビンセント以下の集団は実力差がほとんどないため2~3時間では周回差はつかない。そのため順位は確定したようなものだ。
最後のステージは男女チャンピオン2人の走りを後ろから眺めながら走る。この2人は2012年の1年間でアタカマ・ゴビ・サハラを全て優勝し南極にやってきた完全チャンピオンである。チャンピオン2人ビンセントとアンナ・マリーを含む4人の集団で抜かしたり競り合うわけでもなく一塊になって走る。2位のマイケルだけは先に行ってしまったけれど・・・。
周回差で道を譲ってくれる選手達と声を掛け合い、ときどきコース上に入り込んでくるペンギンが通過するのを笑いながら待ったり、南極を走るという不思議な体験ができていることに感謝しながら最後の時間をかみしめる。1周ごとに終わりが近づいて来るのが残念で仕方がなかった。武石さんが大きな日の丸を掲げて走っている。みんな終わりたくないという気持ちはあるだろう。ついにスタッフから「ラスト1周」のコール。この周回が終わるとビンセントの総距離が200kmを超えレースは終了する。
最後はフィニッシュラインの前で一度止まって1人ずつゆっくりフィニッシュし完走メダルをかけてもらう。この瞬間私の砂漠レースチャレンジは完結した。最終ステージが中止にならず走って終われて本当によかった。この後は砂漠レースの中で私が最も好きな時間。選手同士ゴールを迎えてお互いを称え合う。オリビエと「今日走れて良かったー」と言葉を交わし、アリと手を取り合って「イエーイ!」とジャンプ!他の砂漠レースと異なりレース中も船でおいしい食事をしベッドで寝ていたため、厳しい環境から解放されたような喜びはないが、砂漠シリーズの最終戦これまでたどってきた道のりを思うとまた格別なものだった。笑顔が爆発している選手達、南極の風景を眺めながら「今までよくがんばったな」と振り返った。
船に戻ってからは全てが終わった解放感でいっぱい。順位も総合4位、男子3位なので表彰対象のはず。いつも「いいなあ、あそこに立ちたいなあ」と思っていた砂漠レースの表彰に立つことができるのかと思うとわくわくして仕方がないが、実は表彰対象ではなかったということがあるといけないので、なるべく考えないように!
寝る前にふと思い立ってコンパス(磁石)と携帯電話(iPhone)の電子コンパスがどのような方角を指すか確認してみる。これはfacebookで「こういう実験をしてみてもらえませんか?」とリクエストいただいたもの。極地に近い南緯64度でそれぞれ変化が現れるか?と思ったが両方とのきれいに同じ方向を指し普通に使えている感じ。ちょっと残念?。