Yukon Arctic Ultra:寒さとは
寒さは恐怖
寒さとは何か一言で言えば恐怖だった。特にマイナス30度で世界が変わる。もっと低温を知る人はマイナス30度と40度はまた別世界というが、 レース中に自分の温度計でマイナス40度になったときにはテンションが上がっていて寒いと思わなかった。マイナス30度では皮膚を露出できない。 フェイスマスクをしていないとスーパーに買い物に行くにも途中でカフェに避難するレベル。痛くて歩いていられない。暖かいことがいかにありがたいことか痛感する。
寒さは気分にも大きく影響する。レースをリタイアした後は、暖かい部屋にいると「来年もう一度やらなければ」と思い、 それならば今のうちにやれる練習をと思ってソリを引いて練習に出かけても体が冷えると「やっぱりこんな危ないことはもうやめよう」と思ってしまう(単に心が弱いだけかもしれない)。 それで複数泊の練習をしようと出かけても1泊すると「もうやめよう」となり、1日暖かい部屋で休むと「もう一度がんばってみよう」とやる気を出して出かけというのを繰り返した。 暖かい部屋で想像しているのと現場に出るのとはまったく違う。
細かい作業の制限時間
屋外活動時に問題になるのがグローブを外していられる時間。インナー、シェル、メリノウール(ミトン)、アウター(ミトン)と4枚重ねていたが、 細かい作業をするときには外側のミトンを外してインナーとシェルだけの状態になる。この状態でどのくらいいられるかが屋外活動時のストレスに直結する。 マイナス20度くらいだとそれほど急がずに食べ物を食べたり、ガソリンストーブを使ったり、ツェルトを設営したりすることが可能。 しかしマイナス30度になると1~2分で手が痛くなるためその時間でできることしかできない。いくつかやることがあった場合、 1つ作業して手が痛くなったらグローブをはめて手が温まるまで行動し温まったら次の作業というようになる。フォークを使ってラーメンを食べるなどまず無理。 またGPSやスポットの電池交換はさらにやっかいで素手にならないと厳しい。あらゆる作業をおこなうときにアウターを外したら時間制限のカウントダウンが始まる。
ファーはGood!
寒さ対策で最もよかったのはアウターのフードにつけたファー。エスキモーの絵などでよく描かれている顔のまわりのふさふさしたやつ。 下見のときはフェイクファー(本物の毛皮ではない)を付けていたが、フェイクファーは凍ると言われ本番はタヌキの毛皮をつけた(れなっちが夜なべしてつけてくれた)。 本番のときは支障はなかったが多少雪がついたように凍りかけていた気がする。毛皮の種類によっても違うようだった。 効果はフェイスマスクをつけて寒さ対策はできていてもファーがないとまつ毛が凍り、氷がだんだん大きくなってくる。ファーをつけると凍ったまつ毛が解けて氷が落ちる。そのくらい違う。 風が吹いても暖かく安心感がある。あえて弱点を挙げるなら視界が狭くなって眠くなりやすくなるくらい。 レースでファーを付けている人は少数派でレースの写真を見るとバラクラバ(目出し帽)ごと真っ白に凍りついてすごい風貌になっている人をよく見るがなぜファーを付けないのかと思う。 おまけとしてファーが顔の前ではなく横に来るようにフードを被ると耳がとても暖かい。