ホワイトホースへ出発
成田からバンクーバー経由でホワイトホースへ。長い移動の末に到着した街はマイナス25度で、ホームステイ先ではさっそくキムチ鍋を囲んでミーティング。暖冬でレースコースそのものが成立するか分からないという話まで出て、下見の時点から極地遠征の現実が立ち上がる。
Yukon Arctic Ultra 2015 Report
このページからは旧ページの日記にリンクしています。
ユーコンでの下見、ホワイトホースでの準備、レース本編、リタイア後の一人トレーニング、そして帰国まで。Yukon Arctic Ultra 2015 の長い遠征全体を、旧サイトの日記へつなぐ形でまとめています。
初めての極寒環境に入り、テント泊、ストーブ、焚き火、トレイル歩行を一つずつ試していく下見の日々。
成田からバンクーバー経由でホワイトホースへ。長い移動の末に到着した街はマイナス25度で、ホームステイ先ではさっそくキムチ鍋を囲んでミーティング。暖冬でレースコースそのものが成立するか分からないという話まで出て、下見の時点から極地遠征の現実が立ち上がる。
フィッシュレイク周辺を下見し、夜はホームステイ先の庭でマイナス35度のテント泊に挑戦。上半身は耐えられても足先の冷えが深刻で、ツェルトやマットの効果、シュラフ内の結露、オーロラ撮影時の手足の冷えまで含めて、極寒で寝ることの難しさを身をもって知る。
一晩外に放置したストーブが案の定うまく作動せず、燃料漏れやパッキン凍結に振り回される。フィールドに出る代わりにハイウェイ沿いを走り歩いて寒さの感覚を確かめ、夜は追加実験で足先の冷えも再確認。机上の準備だけでは見えない問題が次々に出る日。
新しく買った MSR ストーブを持って初めて本格的にユーコントレイルへ。マイナス30度前後の中で、歩きながら補給、グローブ操作、顔の防寒、時計の見やすさまで実地で試していく。寒さの閾値が体感で分かり始め、装備を使いこなす感覚が少しずつ育つ。
ここからは実際のレースを意識して、荷物を載せたソリを引く練習へ。歩けることと、ソリを引いて極寒の中を進めることはまったく別で、ペース、姿勢、引き心地、細かなストレスの違いが一気に見えてくる。下見が「観察」から「実戦寄り」へ切り替わる日。
もし落水したら、もし停止したら、という最悪の状況を想定して焚き火とビバークを繰り返し試す。火がつく木の見極めや、雪上での停滞のしんどさが少しずつ現実味を帯びてくる。生き延びる技術は、気合いではなく準備と経験の積み重ねだと痛感する。
ウェアの重ね方、顔まわり、手足の冷え、止まったときの危うさまで、これまでの実験結果を踏まえて装備を詰めていく。何を持つかより、何をどう使うかのほうが重要だという感覚が強まる。ここまでの試行錯誤が、後の本戦の土台になっていく。
下見期間の終わりが近づき、極寒そのものへの恐怖は薄れた代わりに、行動中の汗や凍結、道具の扱いの難しさがリアルな課題として残る。できることと危ないことの境界が見えてきて、ようやく「来年に向けて何を学ぶべきか」が整理されてくる。
短いようで濃かった下見期間が一区切りつき、ホワイトホースでの暮らし、人との出会い、極寒の現実がまとめて記憶に残る。まだ完走には遠いが、何も知らないまま挑むのとは違う位置まで来たという手応えだけはある。ここから本番編へつながっていく序章の終点。
下見を経て再びユーコンへ。本番に向けて準備しながら、街の空気やオーロラも含めて極地の時間に入っていく。
大量の荷物を抱えて再びホワイトホースへ。空港では荷物が一つ届かないトラブルもありつつ、夜にはオーロラを撮影し、極地のスタート地点へ戻ってきた実感が湧く。ここからは下見ではなく、いよいよ本番の時間。
ダウンタウンを歩いてホテルやスーパーの位置を確認し、夜は櫛田さんに誘われて本格的なオーロラ観察へ。空を割るようなオーロラの爆発に当たり、自然のスケールに圧倒される。レース前の緊張の中で、ユーコンの特別さを改めて刻み込まれる夜。
れなっちと一緒にフィッシュレイクからトレイルを歩き、モカシンや焚き火の実地テストを行う。焚き火は最初失敗し、「落水後なら死ぬ」という感覚まで含めて、サバイバルの厳しさが突きつけられる。練習の一つ一つがそのまま生死に直結する日。
昨日の失敗を踏まえて、植生を見ながら木を選び、焚き火を作る技術をもう一度確認する。ようやく最低限の火を安定して起こせる手応えを得て、スタートラインに立つ資格を一つ得た感覚になる。気温予報を見ながら装備配分も大きく見直す日。
ガソリンストーブ、焚き火、最大荷重のソリまで、本番仕様を一通り確認してからダウンタウンのモーテルへ移動する。食料5日分を積んだソリは思ったより引けるが、寒さの中での買い出しだけでも体力を削られる。準備の最終段階に入る一日。
モーテルにこもって GPS 入力とドロップバッグ作成を進める完全準備日。必要な装備や行動計画を紙とデータに落とし込み、本番の流れを頭の中で何度もなぞる。外は極寒でも、内側では静かにレースが始まっているような一日。
スタートからブレイバーンを目指す本戦。寒さ、眠気、汗による凍結に削られながら進んでいく。
ホワイトホースの街を歩き、両替や散策で穏やかな時間を過ごす。 ポリーン宅では極寒下での汗対策など実践的な知識を共有し、食事と交流で気持ちが落ち着く。 レース後の動きや荷物管理も具体的に確認し、不安は徐々に整理されていく。
ブリーフィングと装備チェックを終え、レース直前の空気を実感。 シュラフがNGとなり急遽レンタルするなど想定外も発生するが、柔軟に対応。 周囲の厳しい反応に揺れつつも、多くの支えを感じながら準備を完了。 8ヶ月の積み重ねを胸に、あとはスタートに立つだけ。
出遅れとトラブルで最後尾からのスタートとなるが、落ち着いて走り出す。 極寒の中、追い上げながらも集団に追いつけず厳しさを実感。 CP到着や仲間の支えに励まされつつ、夜の行動へ。 眠気と装備トラブルに苦しみながら、極限の一日が始まる。
極寒の中で再出発するも、装備の凍結と停滞で大きくペースダウン。 焚き火や休憩で立て直しを試みるが、状況は悪化していく。 限界を感じリタイアを決断し、救助を待つ判断へ。 回収後はCPで保護され、過酷なレースから離脱する。
他選手の動きを見て判断を振り返りつつ、スノーモービルでCP3へ移動。 コースや他選手の装備を観察し、次への課題を考え始める。 主催者と対話し、装備や戦略の改善点を確認。 レースは終わっても、すでに次への準備が始まっている。
レースを終えても、まだ終わらない。一人でユーコンを歩き、装備を試し、街と山を行き来しながら学びを深めていく。
荷物を整理し、レース中のレポートを書きながら、明日どうするかをぼんやり考えるだけの一日。気温はどんどん上がり、あの過酷な寒さが嘘のように感じられる。休んでいるのに、頭の中ではもう次の行動を考えている。
昼まで寝て、ごろごろしながらレポートを書く。もう練習は終わりにして帰国を待つか、それとももう一度山に入るかで心が揺れる。暖かい部屋にいると、やはりもう一度試したくなってくる休養日。
ベイパーバリアの実験を目的に、一人でソリを引いて再びユーコンのトレイルへ。途中でグローブを落としたり、トレースが消えたりしながらも、夜の山に入り込んでビバークまで進む。リタイア後とは思えない、前向きな再挑戦の始まり。
湿りの少ないソックスやマットの性能を確認しながら、フィッシュレイク周辺を歩いて戻る。ベイパーバリアには一定の効果を感じつつも、皮膚へのダメージなど新たな問題も見える。レースよりも自由だが、検証としてはむしろ濃い一日。
お昼まで寝て、レポートを書き、また「明日もう一度山に行こうか」と思い始める。練習をやめて帰るという選択肢と、もう少し試したいという気持ちが行ったり来たりする。静かな部屋で迷いが熟していく日。
フィッシュレイクをもう一度歩きたくなり、二度目の一人ユーコンを実施。出発直後にストーブポンプを忘れて戻るという大きなロスがあるが、それでも夕方から再スタートし、夜の稜線でビバークまで進む。失敗込みで学びを積み直す日。
マイナス2度の朝、雪の状態や湿った装備の扱いを確認しながらフィッシュレイク周辺を歩き回る。最後のソリ練習として景色も撮影しつつ、これまで試したことを整理するように歩く。これでユーコンでのソリ練習は一区切り、合計300km以上を歩いた実感が残る。
一日のんびり荷物整理。写真も撮らず、完全に部屋にこもる休養日。派手な出来事はないが、こういう日があるからこそ長い滞在のリズムが整っていく。
主催者からのレンタル品を返却し、ダウンタウンからホームステイ先まで観光も兼ねて自力で帰る。川沿いの道やハイウェイ、山側の道をつないで、最後までホワイトホースの地形を自分の足で確かめる。返却の日でありつつ、まだ旅は終わらない。
残りの日程はダウンタウンに近い家へ移り、最後に焚き火とノコギリの扱いをもう一度確認する。装備は少しずつ減っていくのに、経験は逆に増えていく。滞在終盤らしく、次の挑戦へ向けた視点で一日を使う日。
ホワイトホース市民のお手軽コースと聞いていたグレイマウンテンへ向かうが、冬の積雪は想像以上に深く、稜線の風も強い。モカシンやスノーシューも試しながら進むが、無理はせず途中で撤退。ユーコンでは「手軽」の意味も日本とは違うと思い知らされる。
装備を整えて再挑戦するが、トレイルは雪に埋もれ、踏み跡は途中で消え、崖や怪しいルートに阻まれて再び敗退する。ホワイトホース市民の「お手軽」トレイルは、冬のユーコンでは全然お手軽ではなかった。2日続けて跳ね返され、山の手強さだけがはっきり残る。
ホワイトホース最終日は春のように暖かい街を歩き、お土産を買い、ポリーンさんたちにレース報告もする。1か月近い滞在の中で、人との出会いそのものが大きな財産になったと改めて感じる。完走できなかった悔しさと、また来たい気持ちが静かに重なる最終日。
早朝のホワイトホース空港へ向かい、バンクーバー経由で日本へ。乗り継ぎの待ち時間には、来年に向けた改善点を文章にまとめ続ける。成田ではれなっちが迎えてくれていて、夢のようなユーコン滞在がようやく日常へ戻っていく。
日ごとの記録とは別に、旅を終えてから見えてきたことをまとめています。
足元の凍結やグローブの冷えなど、汗と蒸気によるトラブルが主な課題として明確化。 ベイパーバリアか透湿か、装備方針を徹底する必要があり、替えソックスの運用が現実的な解決策。 シュラフやダウンは主催者基準に合わせることが重要で、自己判断の装備では通用しない場面もあった。 装備構成やパッキング方法も含め、次回に向けた具体的な改善指針が整理された。
マイナス30度を境に環境は一変し、寒さは単なる不快ではなく恐怖として体と精神に影響する。 低温下では作業時間が極端に制限され、行動すべてに時間管理が求められる過酷な状況。 暖かい環境と現場とのギャップも大きく、判断や意志にも揺らぎが生じる。 その中でファー装備は有効で、寒さ対策と安心感の両面で大きな効果を発揮した。
極寒環境では着火手段を複数用意し、単純で確実に動く装備を選ぶことが重要。 ガソリンストーブは低温でも使用可能だが、凍結による不具合を防ぐ工夫が不可欠。 マッチ・ライター・マグネシウムなど特性を理解し、状況に応じた使い分けが求められる。 最終的には信頼性の高い方法に絞り、確実に火を確保できる体制が鍵となる。
焚き火は着火よりも燃料となる枝の選び方と採取場所が重要で、乾いた木が多い環境を見極める必要がある。 効率的な着火には枝の使い方や火の当て方など具体的な手順と事前確認が不可欠。 また焚き火で装備を乾かすのは現実的ではなく、誤った方法は逆に状態を悪化させる。 極寒下では「乾かす」よりも「凍らせない」運用が重要となる。