菅平高原24−2010
2010/08/21(土)〜22(日)
ロゲイニングの24時間実験レースを菅平高原で開催した。今回は日本で初となる24時間フルロゲイニングの開催に向けた実験である。コントロールの設置はおこなわない簡易運営で実行委員長である自分も出走してしまう。チーム名は「菅平高原24実行委員会」24時間山をさ迷うパートナーはいつも菅平高原のレースのスタッフをしてくれているH詰さんとひろっちだ。
21日朝8時。出場者が集まってくる。今回は実験ということで出場資格をきびしく制限したため実績のある7チーム16名の競技者が集まった。8時15分から競技説明と地図の配布をおこなう。8時30分から各チーム地図を広げて9時のスタートまで作戦を考える時間。地図は25000分の1でA3サイズが11枚と圧倒的な広さ。今まで開催してきた12時間の部だとこのサイズの地図なら3枚程度なので広すぎるくらい広い。それでもせっかくの24時間なので、あっと驚くものを出したかった。おそらく一番遠いコントロールに行くことにしたら、寄り道なしでそこに行って帰ってくるだけでも24時間かかるかもしれない。
いつもはロゲイニングのスタート前作戦時間は10分〜15分程度だが今回の場合30分でも全然足りなさそう。スタート10分前になり実行委員会チームがどのように行くかを決める。実行委員会は基本的には参加者と点数を競うのではなく下見ができていない場所や危険かもしれない場所を重点的にまわる予定。 スタート1分前になってもどのチームも地図を並べて途方に暮れている様子(笑)どうみても定刻通りに出発できそうにないが、スタート時刻の9時が近づいたので一応カウントダウン。9時ちょうどに実験とはいえ日本で最初の24時間ロゲイニングがスタートした。いつものレースならスタートの掛け声と共に競技者がいろいろな方向に散っていく光景が見られるが今回はスタートしても誰も動かない(笑)
5分10分と時間の経過とともに少しずつスタートしていく。実行委員会チームも9時10分ごろに出発。最初はゆっくり走りながら大松山を目指す。標高1300mの高原で、まだ午前9時過ぎなのに暑い。これから真田町の市街地に降りて行ったらどんな暑さなんだと不安になる。汗びっしょりになりながら大松山に到着。風が吹けば涼しいし根子岳・四阿山がきれいに見えていて気持ちがいい。
ここから大松山の西側斜面の途中にあるはずの高圧電線のメンテナンスのための小道に向かって藪こぎ降下。道に気づかずに降り過ぎてしまうと身動きとれなくなってしまうので慎重に進む。今回は目指す道が高圧電線のメンテナンスの道なので近くには電線があり目印になる。小道らしき踏み跡を発見するがほんとうに微妙な踏み跡で「道?」って感じ。踏み跡を北に向かいコントロール設定場所へ。そこで折り返して大松山の西側を通り抜け真田町に降りて行く林道との合流地点を目指す。不明瞭な道が続き林道との合流はスタートから4時間以上経過してから。4時間もかかってまだ大松山ではこの先の予定が考えていた通りにこなせなくなりそうだった。
林道でTLCチームに出会ってびっくりした。自分たちは藪こぎ探検して時間がかかっているため他のチームはとっくに菅平高原の外へ出ているだろうし、全部で7チームしかいないのでそうそう他チームに会うこともないだろうと思っていた。林道部分は沢になっているが最近大量の水が流れたようで道がえぐられて壊れていたりした。ここは以前MTBで通ったこともあるが今はMTBで通行するのも厳しいと思われる。足場の悪い壊れた林道を歩いて下界の集落へ。移動時間・距離は大したことないと思うがここまで藪こぎなど足場の悪いところばかりだったため早くも足の裏が痛くなってきていた。
歩いたり走ったりしながら集落の中心部に行くと自販機があったのでそこで休憩。ジュースを買い水を補給。気温は相当暑い。休憩している間に林道で出会ったTLCチームと一緒になる。次は実行委員会チーム今回の最大の山場と思われる天狗岩と小池のコントロールに向かう。山を登りながら後ろを振り返るとTLCチームも登ってくるのが見えた。この2か所は道がなくどのような状態になっているかわからないため慎重に行かなければいけないが序盤で予定よりも時間がかかっているため日没時間との競争になる。今回はGPSトラッキングと、さらに実況中継ブログに各チームが状況を投稿しているので、だいたいどのチームがどこにいるのかわかる。その情報によると天狗岩・小池に向かうのは実行委員会チームが最初になりそうだった。このタイミングを逃すと夜に行かなければならずそれを考える人はいないだろうと思えたので、おそらく天狗岩・小池に行くのは自分たちと後ろから来ているTLCチームだけになりそうだった。
舗装路である程度登ってから未舗装の林道になる。最初に向かう天狗岩は近くまで林道が行っていないため登りやすい斜面を見つけたら、あとは地形を読んで接近しなければいけない。林道で天狗岩に最接近してしまうと急斜面を登らなければいけなくなるので、ゆるい斜面の場所から林道を外れようと考える。登る方角の斜面がゆるくなってきたところに踏み後を見つけたのでそこから天狗岩に続く尾根を登ることに決めた。踏み後に入っていくと林業か何かの赤いテープが木に巻かれていたりして人の手が入っているのがわかる。天狗岩に向かって方向を変える分岐になるピーク近くに「2010/4 田中」とペンキで書かれている木があった。
ピークから東の尾根へ向きを変えて天狗岩に到着。尾根の先端に小さな岩があるだけだったがその下は切り立った絶壁で真田市街地が一望でき展望が良かった。少し休憩しつつ次の小池に向かうかどうか検討する。 すでに夕方になっていて小池に行くと簡単には脱出できない山奥で日没を迎えることになる。H詰さんとひろっちは不安らしく(自分も不安は不安だけど)引き返すことも考えていたが明らかに行くことが困難な小池には今回の最大の点数をつけているので、これがもし勝負のかかったレース中であれば多少のリスクは承知で行くはずと思ったので、「行きましょう!」と強く提案して突き進むことにする。それに自分達が引き返した場合、来年本番レースを開催する場合に参加者に自分達のやらなかったことをさせるわけにもいかずコース設定の幅が狭くなってしまう。
先ほど方向を変えたピークまで戻る。このピークから天狗岩までの往復と作戦会議の時間もあるのに後ろから来ていたTLCチームが来ない。どこで迷っているのか、あまり遅れてこのエリアに突っ込んでくると道のない山の中で夜間行動になるので大丈夫かなと少し心配になる。進路を北に変えて尾根を進む。尾根の上は軽く踏み後があり思ったほど歩きにくくない。ときどき踏み後が怪しくなって棘のある植物に引っかかったりする。少なくとも小池までは明るいうちに行きたいとペースを上げる。チームメンバーには自信たっぷりに行こうと提案したものの、こんな山奥で真っ暗になることを想像すると正直なところ怖い。
尾根をたどって思ったよりも早い時間で小池の近くに到着。小池に行くには尾根を外して沢に入って行かなければならない。慎重に方向を決めて小池へアタック開始。斜面を下っていくと行く手にはシダが生い茂っていて生理的に入っていきたくない感じ。少しでも植物の薄いところを選んで少しずつ下っていくと池を発見。17時50分に小池到着!ミッション完了!最大の目的地に到着したことにほっとしたものの、山の最深部にいてまもなく日が暮れる。山は登頂よりも下山時に遭難することが多いと言うから、ここからさらに気を引き締めなければならない。(そんなにオーバーなことじゃないだろうとは思うけど、仲間の「戻ってもいいかも」という意見をさえぎって小池まで突き進んできたので、責任やプレッシャーも感じます)
ここから尾根に復帰した後、2通りのコースが考えられる。1つはさらに進んでエイドを設置してある新地蔵峠のなるべく近くに下山するコース。もうひとつは通ってきたところを戻って真田方面の集落に戻るコース。元来た道を戻るなら確実。進む場合は藪で進めなくなる可能性や戻るよりも山の中を進む距離が長いため日が暮れたら道迷いの可能性も高くなる。しかし地形図を見ると進む方向には山道を示す点線も書かれている。もし道がはっきりしていれば問題ないが、山奥の道など数年通行されないとなくなってしまうのであてにならない。日没との競争だが落ち着いて作戦を考える。まずは先へ進み地図上の点線の道がほんとうにあるか捜索して道が見つかれはその道を進むし、見つからなければそこから下の集落に向かう道のない尾根をナビゲーションして脱出することに決定する。道のないところ暗闇の中で新地蔵峠に向かってナビするのは難易度が高いのでなしで。

急ぎ足で尾根を北に向かい点線の道のすぐ上のピークへ到着。ここで高度計を確認してから点線の道があるはずの方向へ下りていく。もし点線の道がなく下りすぎてしまうと道迷い遭難になってしまうので神経を使う。木の間から見える夕焼けがきれいだったが、もちろんのんびり眺めている余裕などない。完全に日が暮れてからわずかな踏み後を見つけることなど不可能だから時間との戦いになっていた。高度計で見てこのあたりのはずというところで3人でライトを振り道を捜索。すると意外にもはっきりした道・・・というか軽トラックが通行しているようなしっかりした道を発見した。これだけしっかりした道なら地形図に書かれているところまでは道があると思われ安心することができた。安心したところで「そういえばTLCはどうなったかな」と人のことが気になり始めた。ここからは役割分担してH詰さんとひろっちにライトで道を照らして前を進んでもらい、自分は手元の地図とコンパスの確認に集中し道が行こうと思っている方角に向っているかチェックしながらついていくことにする。道があるからといって適当に進んでしまうと道が地図と違っていて予定外の方向へ連れて行かれてしまう可能性もある。
道は地形図通りに通っていて新地蔵峠に向かう道路に出ることができた。この時点で20時近くになり、新地蔵峠のエイドは21時に撤収してしまうので間に合うかぎりぎりくらい。4km程度の登り坂。全力で歩いてエイドを目指す。もっともエイドに行っても次は食料調達のため真田市街地に向かうのでまた折り返してくるのでレースとしてはエイドをキャンセルしてしまってもかまわないのだがせっかくエイドを設置してくれているので顔見せだけでも。この登りで風邪気味だと言っていたひろっちの体調が悪化してきて遅れがちになる。ところどころで後ろを振り返ってひろっちを待ちながら進む。エイドの閉店に間に合うか微妙な状況だったのでH詰さんと「エイドに行ったら20時半オーダーストップですとか言われたりして」と話しながら進む。思ったよりも早く20時40分過ぎに新地蔵峠エイドに到着。
新地蔵峠エイドでは、ばばQさんが迎えてくれた。幸いオーダーストップと言われることもホタルの光を歌われることもなくコーラ・おにぎり・どらやきを食べ話をしながらしばし休憩。気になっていたTLCチームの動向はGPSトラッキングで見ると天狗岩の手前まで行って市街地に引き返したようだった。その後2時間ほど動きがないらしいが、ばばQさんがGPSトラッキング画面を拡大したところ「健康ランドふれあいさなだ館」と書かれたところにマーカーが止まっていて「これは温泉に入ってるねえ(笑)」ということだった。

自分たちの他にエイドにはチームインリン(東北大OB)が向かっていて近くまで来ているとのこと。少しすると松代側の坂の下から「あったー!」と歓喜の叫びが聞こえてきた(笑)しばらくチームインリンと一緒にエイドでのんびりしているが、ひろっちは気持ち悪そうで嘔吐している。これはちょっとやばいなー、ひろっち完走できないかもなーと思う。チームインリンは補給を済ませると近くの十福の湯に入り足を冷やしてくると言い出発。「露天風呂が気持ちいいから入ってきなよー」と見送る。こちらものろのろと準備をして出発。なんと1時間もエイドで休憩してしまった。

「走るよ?」と声を掛けて真田町に向かって走り始める。10km近い下り基調のロードになる。とりあえずコンビニまで行って温かい食事をしたい。km7分くらいでゆっくり走る。ひろっちは調子は悪そうだがついてきている。持ち直してくれればよいが。途中でエイドを撤収したばばQさんの車に抜かされた。かなり走って見覚えのある場所を通り「ここってさっき山から出てきたところだよね?」と話す。ここからエイドまでの登り下りと休憩で2時間くらい使ってしまっている。

ひろっちが非常に調子が悪そうになり遅れがちになってきたので、ばらけず普通の声で会話ができる位置でかたまって走るように提案する。離れてしまうと様子がまったくわからない。途中のコントロールを通過しながら真田市街地へ。信綱寺コントロールでは実況ブログを見ると蒼穹クラブと数分差だが姿は見えず。コンビニ休憩まであと少し千古滝に到着したところで、ついにひろっちもH詰さんも座り込んでしまった。かなり体調が悪い&足をやられてしまっているようだ。
コンビニで2人の様子を見てH詰さんは少し休めば行けそうだけど、ひろっちは体力の問題でなく完全に病気なので復活はしないと思い、菅平高原に帰ったばばQさんに電話。ちょうど寝付いたところだったようだがひろっちのピックアップに来てもらうことにする。本来の競技ではメンバーが1人でも欠けたらチームはリタイアになるが今回の実行委員会チームは今後のために24時間を経験するというのが大事なミッションなので自分とH詰さんだけでレースを続けることにする。コンビニ休憩中に温泉経由のチームインリンと烏帽子岳から降りてきたMileStonesに会った。この2チームはこれから大松山に抜ける林道で菅平高原に向かうようだ。広大な場所に7チームが散っている割には夜間の補給で真田のコンビニに来るチームが多く遭遇確率が高い。
2時ごろコンビニを出発して国道を歩いて菅平へ向かう。もうひろっちがリタイアしてしまったしコントロールの通過は考えなくてもいいかなと思ったが、いちおうやるべきことはやっておくかと思い長谷寺に寄り道。思いのほか国道から急な登り坂が続きだんだんばててきた。H詰さんに「もう少しゆっくりでお願いします」とペースを落としてもらう。長谷寺から国道に戻る途中で眠くなりH詰さんの歩きについていけない。「少し眠らせてください」と言ったものの横になって寝れるような場所があるわけでもなく・・・。国道に合流すると交差点の周辺は歩道に縁石やガードレールがあって車の危険がなさそうだったので「ここで寝ましょう!」と言いガードレールの影へ。15分寝ることにしてアラームをセットしアスファルトに転がる。一瞬で意識を失い次の瞬間にはアラームが聞こえH詰さんに鳴ってるよと起こされた。「え?もう?」という感じだったが、とりあえず行ってみますかと体を起こす。
15分の睡眠でも体の調子が良くなりしっかり歩けるようになった。H詰さんは眠らずに足のケアをしていたようだった。平らなところや軽い登りは走り菅平を目指す。夜になっても蒸し暑かったが明け方近くになって空気がひんやりして気持ち良くなってきた。途中の自販機でコーヒーを購入し一気に飲み干す。菅平湖への登りでH詰さんが「眠くなってきたー」と言う。「少し寝ますか?」と聞いたが「行ける所まで行く」とのこと。少しずつ明るくなってきて菅平湖ではすっかり朝になった。
菅平湖の近くの林道にあるコントロール通過のために久しぶりにオフロードへ入る。足の裏が水ぶくれでぱんぱんになっているのでごつごつした石の上を歩くと激痛が走る。途中で耐えられなくなり「治療します」と声を掛けて止まってもらう。しかしファストエイドはひろっちが持っていてリタイアで回収されてしまったので治療道具がない。ナイフで水だけ抜く。それから靴下と靴を履くが・・・もっと痛くなった!傷口から靴下にしみ込んだ汚れた水分がしみるのか水抜き前以上の刺激的な痛みに襲われる。しかしもうどうしようもないので気合いでがまん。コントロールを通過して国道に戻る途中またも眠くなったのでH詰さんに「少し寝ますか?」と聞くとH詰さんは眠ることなく眠くなくなったらしい。でも自分がどうしても眠いので少し休憩にしてもらって道路に横になる。また一瞬で目を覚まし時計を見ると10分経過。15分のアラームが鳴る前だったが眠くなくなったので出発する。
唐沢の滝手前でトイレに寄っていると真田方面からハライチが登ってきた。唐沢の滝に寄っていよいよ菅平高原内へ。実行委員会チームは明け方から何度か実況ブログを更新しているが前半はたくさんあった他のチームの更新がない。余裕がなくなってきたのか?7時過ぎに白樺荘からも近いデイリーに立ち寄る。もうゴールまで2時間弱でゴール後に歯を磨きたかったので歯ブラシを買っておく。アイスを食べながら出発。ゴール前にあと2つコントロールを取るつもり。歩いてスタート・ゴールのシュナイダーゲレンデスキー小屋の下を通る。ばばQさんが窓から「ラーメンあるぞー」とか誘惑してきます。スキー小屋を通過して峰の原高原自然体験センターへ。到着するとなんと自然体験センターはなくなって更地になっていました。
制限時間の9時まであと40分程度になり「急がないとダボスの丘のコントロールに寄れないかも」ということで少し走る。スキー場のダボスの丘への登りに入ったところで9時に間に合うと確信しペースを落として歩く。ダボスの丘からスキー小屋に降りてゴール。8時41分、タイムは23時間41分で休憩時間も多かったけど、なんとか24時間の競技をこなすことができた。成績のほうはゆっくり移動が多かった割には他の上位チームとの得点差は少なく実行委員会として恥ずかしくない結果で終われた。その要因は天狗岩と小池が未調査で高得点だったため他のチームがリスクを避けたが実行委員会は調査も兼ねて突入し思ったよりは歩きやすい場所だったため、そこで点数を稼ぐことができた。けっきょく天狗岩と小池に行ったのは実行委員会だけで本番レースのときには他の競技者にも小池に行ってほしいなあと思った。初級者が行くと本気で遭難しそうだけど・・・。

反省会ではいろいろな意見をいただき有意義なものになった。来年は正式な競技として実施できるようにがんばろうと思った。きっとできる!

■GPSデータ
移動距離は78.4km
移動時間15時間31分
総上昇量2425m