第22回サハラマラソン
サハラマラソンを振り返って
■気候について
参加してみて一言でいうと「思ったほど暑さを感じなかった」という印象。 ただし「生命力を吸い取られているような嫌な感じ」がする。感覚的に「暑い」と感じなくても、やはり高温と乾燥で 体の水分がとても早く失われているのだろう。まず1日の始まりは寒さで目が覚める。 快適に眠れる装備は重量としてレースのハンデになる。 レースにスピードを求めずに睡眠の快適さを求めるかどうかは各自の判断。 レースがスタートする9時ごろになるとようやく日差しで体が温まってくる。 午前中は微風があって気温は上がっていると思うが風が涼しい。 正午ごろになると急激に暑くなった感じがする。自分がゴールしていた14時から15時くらいまでは過酷な暑さ。 ゴールして一息つき16時くらいになると風にあたると少し寒さも感じ薄手のウィンドブレーカーを着るか、 長袖シャツに着替えるかというくらい。日没の19時くらいには長袖とウィンドブレーカーを着るくらいまで冷えてくる。 そのためレース以外の時間も含めた全体の印象は「寒かった」。 真夜中に砂嵐になることが多かったが、去年は午後になると砂嵐ということが多かったらしい。 毎年同じような気候になるとも言えないため、ある程度臨機応変に対応できる服装をテストして持っていくのがいいだろう。
 
■レース中の補給について
ステージ1、2は500mlのペットボトル3本のうち1本をスポーツドリンクにして水とスポーツドリンクを交互に飲んでいた。 しかしスポーツドリンクの味にどうしても馴染めずスポーツドリンクはあまり消費できなかった。 結果として給水不足気味になり体調を崩していた。 ステージ3からは給水はすべて水にし1度に多めに水を飲むように意識した。 また水のみの場合、体に吸収されにくくなるためスタッフから支給されるソルトタブレット、塩飴を頻繁に摂るようにし、 チェックポイントではアミノバイタルプロを飲むようにしていた。 アミノバイタルプロは1日3袋の計算で用意していたのでよかった。 この方法で給水については3日目以降不足を感じることはなかった。 また最大1.5リットルの水を搭載できるようにしておいたが、自分の競技時間であれば1リットルで十分だったように感じる。 ステージ5のフルマラソン前に500mlのペットボトルを1つ捨てて最大1リットルにした。

レース中の栄養補給はカロリーメイトなど乾いたものだと口の中まで乾いてしまっているので飲み込むのが困難だった。 このような乾いたものを補給として使う場合は片手に食料、片手に水で交互に流し込むのがいいと思う。 これはあまりタイムを狙わない人向き。ステージ4、5でパワージェルを使ったがこれはなかなかよかった。 ちょっと変わったものとしてはステージ4でグミを食べていたがおいしく感じ、気分転換にもなり、 カロリーもけっこう高かったりしてもっと持っていけばよかったと思った。 全体を通してカロリーメイトなどクッキー系のものは喉を通りにくく余ってしまったためレース終盤で捨ててしまった。
 
■レース中の服装について
半袖シャツ(化学繊維のもの)、ランニングパンツを使用。長袖シャツを着用している選手も多かったが半袖で問題なし。 ただし日没近くになると寒くなってくるため競技時間によってはレース中に長袖が必要になることもある。 この辺の判断は参加者の実力や作戦により変わってくるところだと思う(単なる真似じゃだめってこと)。 日焼け止めは必須。日焼け止めをつけていないとやけどのように水ぶくれができてくる。 日焼けとはいえ症状がひどいとレース中でもメディカルに連行されるようなので注意。

シューズは普通のランニングシューズを使用したが通常のサイズよりも1.5cm大きいものにした。 大きなシューズを選択する理由は2つ、 『暑い中で長時間のレースをおこなうため足がむくんで大きくなる』   『水ぶくれやマメの治療をして、ガーゼを当てたり、テーピングや包帯を使うと大きなシューズでないと履けなくなる』。 サハラマラソン参加者の間では一般に2〜3cm大きいものを使うのがよいとされているので控えめなサイズであるが やわらかいランニングシューズを選択したため紐を緩くすればなんとかなるだろうと考えた。またこれ以上大きなシューズに すると走行に支障が出るというのも決め手となった。結果的に水ぶくれもマメも大したことはなかったため このシューズの選択は成功だった。レースが終わったあとで通常のシューズに戻ったらシューズが少し窮屈に感じ 数日たっていつもの感覚に戻ってきたため足のむくみは確かにあったと思う。

サングラスも必須。強い紫外線から目を守る。自分の用意した(現地で失くして同じモデルを他の人から借りたんだけど) サングラスは可視光透過率がけっこう高かったので目が疲れないかと心配だったが紫外線を防げるだけでも十分に効果があった。 むしろ可視光透過率が高いおかげで夜間の使用も可能で重宝した。砂漠ではちょっとした風で砂が舞い上がるため 目を保護する意味でもサングラスは重要装備。使用したサングラスはレンズにパッドをつけて ゴーグルのようになるサングラスのため砂嵐が来ても完全に砂を防いでくれた。
 
■キャンプ地での食料について
基本的にはアルファ米とフリーズドライの「かつ丼」「親子丼」「カルビ丼」「牛丼」を組み合わせて食べていた。 カレーやおしるこなどもおいしく食べれた。これらは事前の試食でもとてもおいしく食べられ、レースが始まる前から 「早く米が食べたい」(現地への移動で日本食から離れていたので)と楽しみにしていたのだが、 レースが始まって何日かしたらアルファ米に飽きてしまった。しかしアルファ米はとても優れた食料だと思うので 過酷な環境でのレースなので多少飽きたりするのは我慢するということでいいと思う。 もっと持っていったほうがいいと感じたものは「みそ汁」。毎日の夕食用として6袋持っていったが1日3食分あっても良かった。 あと水かお湯を注ぐだけでいい紅茶もとてもおいしく感じた。これも10袋しか用意していなかったがもっとほしかった。 他の日本人参加者からもらった粉ジュースもおいしかった。ドライフルーツもおいしかったが思ったよりは食欲がわかず 最後のほうは無理やり食べたという感じ。あまり大量に持っていく必要はないだろう。キャンプ地でもカロリーメイトなどの クッキー系はほとんど食べず。夜中に空腹を感じたときはシュラフの中にグミやドライフルーツを持ち込んで食べていた。 やはりグミはいい(笑)持って行かなかったものでは、おぞうに、水で出せるお茶&麦茶があるとよかった。 レース中は肉や魚を食べるのはほぼ不可能だが、ご褒美として重量無視で持っていったサンマの蒲焼の缶詰は大当たりだった。 飢えていた後半戦では「焼肉のたれがあれば・・・」などという会話もしたが、これは冗談。
 
■キャンプ地での服装(防寒)について
自分の場合その日のゴールに到着するのがだいたい14時前後。しばらくのんびり休んで16時くらいになると半袖、ランパンでは 少し寒さを感じるくらいだった。そのため夕方には薄手のウィンドブレーカー上下を着ていた。 暗くなったころには、ロングタイツと長袖アンダーシャツ、長袖Tシャツで防寒。それでも寒さを感じればさらに ウィンドブレーカー上下を着るが、就寝時間はだいたい20時半ごろでシュラフに入ると少し汗ばむくらい。 ただし夜中に砂嵐が来て風があたったり、明け方になって気温10℃近くまで冷えると寒さで目が覚める。 日本での実験段階から「明け方は寒さで目が覚める」と思っていたし、 軽量化やザックの容量との兼ね合いがあるため仕方がない。身に着けるもので持って行って使わなかったものは ランニンググローブ(薄手の手袋)と花粉症のマスク。花粉症のマスクは砂を吸い込まないようにと思って用意した ものだが、砂が舞い上がっているときは顔にバンダナを巻いていたので使わなかった。
 
■ケガについて
足の裏にマメ、水ぶくれができると走行に大きな支障がでる。ケガが発生すると本来持っている力を出すことが できなくなってしまいレース時間が長くなるだけでなく、次の日に備えた準備・休息の時間も少なくなるため 悪循環になってしまう。今回、日本人参加者では上位3人はほとんど無傷で、 下位2名は特にひどく歩くこともままならない状態になってしまった。 特殊な対策をしたわけでもないのに、なぜここまで差ができたのか想像ではあるが書き残しておく。 上位3人は過去数年間にわたって継続的にトレーニングしていて国内のマラソンレースで実績を残している。 それ以降のメンバーはサハラマラソン参加のために、半年から1年間のトレーニングをおこなってきている。 ただし1年程度の準備期間であっても月間数百キロの走りまたは歩きをおこなっているため練習不足というわけではない。 最終日には歩行困難になっていた坂口くんが決死の覚悟で日本人2位、3位と僅差の4位でゴールし 単なる練習不足や脚力の弱さではないことを証明している。 この練習期間の長さの違いが足の裏の耐久力の違いになり、レース結果を大きくわけることになっているのではないかと感じる。
 
■薬、治療について
胃薬、下痢止め、化膿止め(抗生物質の飲み薬)、鎮痛剤(痛み止め)、解熱剤などを持っていったが まったく使わずにすんだ。痛み止めはどうしようもなくなればメディカルに行けばもらえるようだった。 2日目と3日目に下痢だったがレースに支障はない程度だったので下痢止めは使っていない。 水ぶくれ、マメも軽症だったので自分で水を抜いてマキロンで消毒して傷口を風に当てて乾かしただけである。 湿布も鎮痛剤の一環で少し持って行ったので故障の予防という意味で夜寝るときにひざや足首に貼っていた。

日焼けもひどくなると治療が必要になる。佐藤くんはステージ5のレース中にCPでメディカルに連行されそうになったが タイムを狙っていたのでスタッフを振り切って走りきった。

脱水症状で動けなくなるとメディカルで点滴を打たれる。点滴を打つと一気に体調が回復するらしい。 でも自ら「点滴を打ってくれ」と言っても、スタッフがコースで選手の様子をチェックしていて 「おまえはまだ大丈夫だ」とか言われるらしい。想像するとメディカルは本当にひどくなってきたときには 素早く治療してくれるが、予防という意味では手を貸してくれない。やはりメディカルには頼らない準備が必要だと思う。
 
■砂漠のトイレ
サハラ砂漠には当然トイレなどありません。しかしいろいろな文化に配慮したのか毎日のキャンプ地には 穴を掘ってビニールシートで囲っただけの仮設トイレがあります。自分は大きいほうは全て仮設トイレを使用しましたが 中には「サハラに来たんだから野生に返らなければ意味がない」とトイレを使わないつわものもいます。 トイレ以外で用を足してトイレットペーパーを使った場合は、その場で燃やして処理するように主催者から指示があります。 燃やさないと風向きによっては野営テントのほうに飛んでくるので危険です。レース中のトイレはないので野生になってください。 日が経つにつれ女性選手もその辺で野生に返っています。
 
■レース後の体の変化
おそらくレース中はかなり体重は落ちていたのではないかと思います。予定していた食料もきちんと食べれてなく かなりの量を捨ててしまったためです。しかしレース後は反動で食べたいものがたくさんありワルザザート、パリでは いろいろなものを食べ歩きました。帰国後に体重を量ったら出発前よりも増加していて過去最高体重となりました。 通常の一年間の中で最も体重が重くなるのが春で56kgほどになるところ57kg近くに・・・。 ダイエットで食事制限した人がリバウンドするというのはこういうことかと納得した。 レース2週間後に会社で健康診断を受けた結果「貧血」と判定され、強い負荷の運動(短い距離を速く走るなど) をおこなうとすぐにバテてしまう傾向がありました。もともと強い負荷には弱かったため、「貧血」の影響が どの程度なのかはわかりませんが、体のバランスが崩れたのは間違いないと思われる。
■ヤッラ!ヤッラ!(2007年10月19日追記)
毎朝テントを片付けに来るベルベル人たち。彼らはいつもテントを片付けながら「ヤッラ!ヤッラ!」と 掛け声をかけていて何て言っているのか気になっていたのだがようやく調べた。(調べるの遅すぎ・・・) どうやらアラビア語で「早く」「行こう」というような意味らしい。英語の「Let's Go」と同じように 使うらしい。つまりテントを片付ける作業を急いでいたのかな? 確かに自分も「早く準備しろ」とかなり急かされている感じはした。 ただし本当にそうかは不明。誰か真実を教えてください(笑)

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